2月17日(日) 曇りときどき雪 先日読み終えた『ファイナル・カット 『天国の門』製作の夢と悲惨』の中で、ユナイテッド・アーティスツが「天国の門」と同時期に作っていた「007/ムーンレイカー」のことがチョコチョコと触れられているので、久しぶりに観たくなり、DVDをレンタル。 “007”シリーズの中ではワーストを争うと言われている「ムーンレイカー」だけど、「サンダーバード」のミニチュア撮影で名を挙げたデレク・メディングズ Derek Meddings (1931-1995)による特撮シーンが素晴らしく、それを観ているだけで幸せな気分になるので、ぼくはこの作品が嫌いではない。(少年時代のぼくのアイドルは、日本の特撮の神さま「ゴジラ」「ウルトラマン」の円谷英二ではなく、「サンダーバード」のデレク・メディングズだったということはもう書いたか?) 「ムーンレイカー」は、まだCGなど実験段階でしかなかった1979年の映画であるにもかかわらず、スペースシャトルの打ち上げシーン(下写真。現実には当時まだスペースシャトルは打ち上げられていなかった!)や、宇宙シーンの特撮は素晴らしい。映画そのものの出来がイマイチなので無視されがちだが、これはもっともっと評価されていいと思う。 また、スペースシャトルが宇宙空間を飛ぶシーンの撮影法が、なんと多重露出だったということがメディングズ本人の口から明らかにされ、大感激。 多重露出というのは、撮影したフィルムを現像に出さずにそのままカメラの中で巻き戻して撮影を繰り返すという、いわば映画の創世記からある超古典的テクニック。 今はグリーンバックといった合成用の背景を使ったりすることが多いし(その前はリア or フロント・プロジェクションか)、現像からフィルムが上ってくるまで結果がわからないというリスクが伴うこともあり、多重露出は時代遅れと思われているが、実は結構使えるテクニックなのである。チェコ時代、合成に割く金がないぼくらはよくこれを用いていた。 まず宇宙空間の映像を撮り、フィルムを巻き戻して、今度はスペースシャトルだけを撮る。その際シャトルと星が重なると、星がシャトルの機体を透けて見えてしまうので、黒マスクを作り、シャトルが飛んでいるところだけそれで星を消し、通過したらまた星を出して撮影したという話には、「そうそう、わしらもそうやったん」と涙が出そうになり。(下写真) それから、また感動したのが、シャトルが大気圏に出るシーンで、炎が噴出している機体のノズルから下にのびている航跡(?)は、ミニチュア模型の中に塩を入れ、それが下に落ちているものだということ。こ、これはスゴすぎる発想!(下写真) メイキングの中で、デレク・メディングズと仕事を共にした連中が口を揃えて、「彼は天才で、人間的にも素晴らしい人だった」と言っているのも嬉しかった。 実際、彼の著書“21 Century Visions”を読むと、メディングズは手柄を一人占めするのではなく、謙虚かつ正直に「この功績は誰それ」と、それに携わった同僚・部下たちを賞賛しているのである。これってなかなか出来ることやないで。 因みに、メディングズは「007/ゴールデンアイ」(1995年)の完成直後に亡くなったため、同作のエンドクレジットには彼への献辞がある。ぼくは彼の死を知らず、チェコでこの映画を初めて観た時、それに気づいて胸を衝かれたような感じがしたことを今でも憶えている。
by yaliusatII
| 2008-02-18 03:40
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